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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)61号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 そこで、本件審決に取消事由が存するかどうかを……検討する。

(一) 本願発明は、「コロイド物質の各別の溶液を作り、支持体の面とその横に間隔を置いて設けた固定の塗布装置との間を架橋する関係に該溶液の塗布剤ビードを形成させ、前記の各溶液を層の形で一つが他の溶液に重畳する関係で該ビードに同時に供給して各個別の層が明確な重畳関係に維持される如くなし、前記支持体の面を前記ビードと交又して之と接触するように連続的に動かし、之に依り、該支持体の面が該ビードの重畳層の外端部に係合して前記の全層を同時に引き出し、明確に重畳された層状態の各溶液を伴つて該ビードから移動し去るようにした、以上の各工程より成る、支持体上に明確な薄い層関係で数多のコロイド物質の塗布剤を同時に塗布する多層塗布法」をその要旨とするものであることが明らかである。

(二) そして本願発明の特許公報によると、従来、支持体の一表面に多数のはつきり区別された別々の塗布剤の薄い層を塗布する普通の方法は、各塗布剤を支持体上に次々と塗布し、次の塗布に先だつて各塗布剤を固めおよび(または)乾燥する方法であつたのに対し、本願発明は、この方法に要する時間、手数および費用を節減するために、塗布される物質を溶液状で置き、この数種の塗布溶液を導いて一つのビードとなし、このビードに交又するように接触して塗布される支持体を連続的に移動させる方法により同様な効果をあげようとしたものであることを認めることができる。

(三) 叙上の(一)および(二)の事実に、前記本願発明の特許公報、とくにその中の「本発明の塗布法は塗布される物質を溶液状で置き、塗布点に一定速度で動いて来る支持体に同一カ所に於いて数種の塗布溶液を同時に作用させる場合を含む。之れを成功させる一つの方法は数種の塗布溶液を導いて一つのビードとなし、このビードに交又するように接触して塗布される支持体を連続的に移動させることである。この場合数種の塗布剤の層ははつきり区別されて重畳せられていて且つその各層の厚みは溶液が個々にビードに供給される速度によつてきまつて来る。本発明は以下の如き発見即ち同一若しくは異なる溶液からなる多数の塗布剤はそれぞれの層を適当な塗布装置から供給し支持帯又は他の適当な支持体に結合された状態に各層を同時に塗布するに先だち前記各層が適当に導かれて結合(combi-ne)せられることによつて、はつきり区別出来る層の状態に支持帯又は支持帯の表面に塗布され得ると云う発見に基づくものである。」、「移動する支持帯に塗布するビード法はよく知られた技術であつて殆んど説明を要しないが通常それは塗布装置即ちホッパーの使用を要するもので、この塗布装置から塗布溶液が或る速度で幅の広いリボンの形で支持帯の上に供給されるのであるが、その支持帯は前記塗布装置の出口にある僅かの隙間を横切つて移動するようになつており且つその支持帯の塗布点を平滑にする為に添装ロール又は誘導板が附設されている。塗布装置を離れる塗布液の層は、その離れるときの厚さと同じ厚さの層で支持帯に直接塗布されるのではなくて出た所で一度貯り液溜りになつてから支持帯に移るのである。この塗布溶液がどろどろに貯ることは塗布される支持帯の巾(甲第二号証に布とあるのは巾の誤記と認める。)一杯に完全に広がり、通常これを塗布剤のビードと呼ばれる。……このビード塗布法によつては、塗膜は実際上塗布装置から支持帯に直接沈着するのではなく塗布装置は単に塗布剤ビードを維持し、支持帯はそのビードから塗布されると云うことが斯くして分るのである。このビード塗布法ではそのビードを横切つてこれと交又して移動する支持帯上に塗布される塗膜の厚みはビードの作用によつて決定され且つ支持帯が移動する速度、塗布液の供給速度等によつて変化し、又必ずしも塗布装置の出口スロットの幅に等しいと云うことはない。……塗布剤ビードと云う言葉は塗布装置と塗布される支持帯の表面との間に維持される塗布溶液の貯り或は泥状物を意味するのに用いられ、この貯りを横切り、之と交又接触して、支持帯の表面が該貯りから塗布される様に移動するその如き貯りを意味するのである。なおビード塗布(bead ccat-ing)と云う言葉は支持帯の表面が塗布剤ビードから塗布剤を取上げ引取る所の支持帯を塗布する方法を謂うのである。」「ビードの一般的の外形を確かめることは可能であるけれども、別々に色づけた溶液を使用した時でさえも、各個の層が通る通路を正確に決定することは実際上不可能であつた。何故ならば、ビードの端に於いて、最上部の一層又は二以上の層が他層の上に流下する傾向があり且つ各個の層を識別しにくくする傾向があつたからである。従つて、塗布溶液の各別々の層がビードを通過する間に、その各層間の関係を正確に描写することは不可能であるが、之と関連して起ると信ぜられる所のものを第5図に示した。第5図に示せる如く溶液の最上部の層は毛管現象及び又は表面張力の為に、上部唇の外部表面上に積み重なり、溶液の中間層は若干変形してビードを通過し且つ又溶液の下部層は、毛管現象及び又は表面張力によつて下部唇の端と支持帯Wとの間の間隙中に後退して流れ込み、この間隙を満たすと云うことが分つている。ビードの形及び多分そこを通つて移動する各個の層の通路も塗布速度、塗布溶液の粘度及びホッパー構造の効率によつて相当広範囲に変化するであろうと云うことが知られている。ビードの形についてこの概念及びそこを通る各別々の層の形が正確でないかも知れないと云う事実にも拘らず、異れる塗布溶液の各個別々の層は混合することなく規則正しくビードを通過すると云うこと及びこの技術によつて塗布された多層物質は、各層を塗布する際一層が完全に乾燥してから次ぎの層を塗布すると云う従来の塗布技術を用いて行つた場合に比べて各層間により以上の混合又は汚染を示さないと云うことがこの方法によつて塗布された物質の拡大切断面を観察することによつて何等の問題もなく証明されたのである。」、添付の第5図ならび<書証>を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1 本願発明は、支持体上に明確な薄い層関係で数多のコロイド物質の塗布剤を同時に塗布しようとするに際し、支持体の面とその横に架橋する関係に塗布すべき各溶液のビード(液貯り)を形成させ、叙上の各溶液を層の形で一つが他の溶液と重畳する関係で該ビードに同時に供給し、各個別の層が明確な重畳関係に維持されるようにし、前記支持体の面を前記ビードと交又してこれと接触するように連続して動かし、これにより該支持体の表面が該ビードの重畳関係の外端部に係合して前記の各層を同時に引き出すようにすることを構成要件としている。

2 本願発明の方法は、かように支持体上に明確な薄い層関係で数多のコロイド物質の塗布剤を同時に塗布しようとするについて、既知のいわゆるビード塗布法の方式の構成によるものであり、この構成によつて叙上の効果をおさめるものである。ここに、塗布法とは、既知の塗布法の一種であり、一層塗布法として一層塗布法としては既知の方法であつて、それは、塗膜が塗布装置(塗布剤の供給体)から直接に支持体(被塗布体)に沈着するのではなく、塗布装置と支持体との間に塗布剤のビード、すなわち塗布溶液の貯りが形成され、後に述べるように支持体がこのビードから塗布溶液を吸い上げ(取り上げ)て持ち去る量と大体同じ速度で塗布溶液が塗布剤ビードに供給することによりこの塗布剤ビードが維持される一方、支持体がこの塗布剤ビードとキスするような間隔で横切りこれと交又接触して移動するに際し、塗布溶液の表面張力ないし毛管現象の力によつて支持体の表面が塗布剤ビードから塗布溶液を吸い上げ引き取ることによつて、塗布溶液が支持体の表面に付着し塗布されるという塗布方法である。そしてビード塗布法は、最も正確な塗布方法の一つとして薄い層の塗布に利用されており、かつ、この方法においては、叙上説明からもおのずから推察されるように、通例は、塗布装置は支持体(被塗布体)の下方ないし横方向に位置せしめられる。

(四) 他方、引用例に記載されている発明は、「磁気録音用フィルムの製造に当り最初に磁気材料を含有した磁性被膜形成用高分子物質溶液を製膜機の回転する平板又はドラム板上に流延し引続き、又は同時に支持体形成用の高分子物質溶液を其の上に流延して乾燥製膜する事を特徴とする磁気録音用フイルムの製造方法」を要旨とするものであることは、当事者間に争いがない。

(五) 右(四)の事実に、引用例、とくにその中の「本発明は先づ磁性材料を含有した高分子物質溶液を製膜機の回転平板又はドラム板上に注液器によつて流延し引続き又は同時に支持体用の高分子物質溶液を別の注液器によつて流延し乾燥を行い、2層を同時に一つの薄膜として製膜する方法である。製膜方法としては、第1図に示すように、回転ローラ1、2によつて回転する平板3上に注液器6によつて磁性被膜用高分子物質溶液を先づ流延し、其の後その上に注液器7によつて支持体用の高分子物質溶液を流延し、乾燥した膜を誘導ローラ4によつて誘導した巻取機5により巻取る方法又は第2図に示すように、回転ドラム8の表面に接近して磁性被膜用高分子物質溶液及び支持体用高分子物質溶液の注液器6、7を密接して併置し、同時に両溶液を流延して製膜した乾燥した膜を誘導ローラ4によつて誘導して巻取機5により巻取る方法。或は第3図に示すように2層注液器によつて磁性材料を含有する高分子物質溶液10及び支持体用高分子物質溶液を平板9上に流延する方法等がある。このように、本方法ではフイルムの成形を1工程で製造することができる。この場合、下側第1層内の磁性材料は流延されてから乾燥する間に自重の作用によつて沈降し極めて平滑に製作された製膜機平板又はドラム板上に密に配列し被膜表面に於ける磁性材料の濃度を高めると共に平面性を良好にする事が出来る。」との記載および添付の図面ならびに前記(三)の認定事実を参酌総合して考えると、次のように認定することができる。

1 引用例には、二層の注液器(本願発明にいう塗布装置に対応する。)から二種の溶液を同時に回転する平板またはドラム板に移動させる方法によつて二層を同時に一つの薄膜である磁気録音用フイルムを製造する技術が開示されている。

2 引用例において、右二種の溶液を平板またはドラム板に移動させる方法は、それらを平板またはドラム板「上」に「流延する」方法によつて行なわれることが示されている。そして、右にいう平板またはドラム板「上」に「流延する」との趣旨については、引用例にはそれ以上格別の説明はなく、かつ、引用例にあつては、先に判示したような「ビード塗布法」ないし「ビード法」または「ビード」の形成ないし回転平板もしくはドラム板が溶液をビードから「吸い上げ」もしくは「引き取る」というような構成ないし機能については、これに言及しまたはこれを示唆するような記載は全く見当らない。また、「流延」という用語が当業者の間で特定の意味に用いられているという証拠もない。

3 したがつて、引用例において回転平板またはドラム板「上」に「流延する」との趣旨は、これらの字句の通常の用法にかんがみ、溶液を回転平板またはドラム板よりも高所に位置させた注液器から、これよりも低所に位置させた回転平板またはドラム板に、高低の関係を利用することにより移動させ、空間的に長くひろがるようにする構成を意味し、かつ、これに尽きるものと解するほかはない。この場合、右にいう流延に際し、注液器に溶液を連続供給するときは、注液器と回転平板またはドラム板との間に溶液の不断の移動、すなわち溶液の架橋とも呼称しうる状態を生ずることのあるべきことは常識上考えられるところではあるが、それは、溶液の連続的な低所への一方的移動とみられ、既に判示したビードの形成とは同一の現象ではないと推測するのが相当である。また、引用例の実施例記載の溶液を塗布する場合、その構成の仕方によつてはビードを形成することもあろうが、それだからといつて、引用例が当然ビード塗布の構成であるとすることはできない。少なくとも、引用例は、先に認定した、表面張力または毛管現象の力により、塗布剤のビードを形成し、かつ、支持体(被塗布体)がこれに接触して塗布剤を吸い上げ引き取るという構成によつて明確な薄い層関係で数多の塗布剤を同時に塗布するという技術思想を開示しているものということはできない。

(六) 被告は、引用例の第2図および第3図の構成は本願発明の明細書の第2、5、8図等に示すものと機構的に同様であり、また、引用例における「流延」なる字句は塗布が液体の自由に変形、流動、延長する性質を利用してなされるものであることに着目し、液体を塗布する場合の動的状態をより具体的に表現したものであり、要は引用例を当業者がどのように認識するかにある等と主張するが、被告のこれらの主張は、叙上の認定に照らし、当裁判所の採用しがたいところである。

(七) これを要するに、本件審決は、引用例の開示する技術内容を誤認し、その結果、この点に関し、両者間に事実上の差異はないとの誤つた判断に至つたもものといわざるをえない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、進んでその余の点につき判断するまでもなく、理由があるものということができる。よつて、原告の本訴請求は正当としてこれを認容……する。

(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)

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